税理士の吉澤大先生から、新刊「フリーランス・個人事業主が賢く生きるマネー術」(講談社)(以降「マネー術」)を献本していただきました。

本書は、フリーランス及び個人事業主の方々を対象に、開業後に生じる「お金」に関わる問題をマンガを使って解説するものです。

コロナ禍による在宅時間の増加、企業における副業規制の緩和によって、サイドビジネスを始めたりフリーランスとして独立するケースも増えています。それにあわせ、独立開業後の自営業者を対象にした税金の指南本も多く出版されていますが、本書と類書の違いをあげると次の2点に要約されるでしょう。

  • 消費税のインボイス制度に対応
  • 税金以外の「お金」の問題も網羅

消費税のインボイス制度に対応
従来、フリーランス向けの税金本は所得税や事業税、さらにはそれらの申告方法が内容の中心でしたが、現時点においてフリーランスの方々が最も注意すべき論点は消費税のインボイス制度になります
なぜなら、所得税の申告が事業者に選択の余地のない必須手続きなのに対して、インボイス制度導入時に消費税の課税事業者を選択するか否かについては事業者の判断に依るからです。

フリーランスとして免税事業者のままでいるのと課税事業者(適格請求書発行事業者)になるのと、どちらが有利かを判断するためには、消費税の基本的な仕組みを知らなければ判断できません。
したがって、フリーランス向け書籍としては消費税のインボイス制度についての解説を含むことが必須要件になります。
その点、「マネー術」は、帯文に
『インボイス制度(2023年)』もマンガで解説
と記載されているように、冒頭の第1章において言及されています。

・税金以外の「お金」の問題も網羅
フリーランス向けの書籍は税理士の先生が著者になるケースが大半です。その場合、各種税金と社会保険周りのトピックを中心に構成されます。
一方、本書では、「税金」という範囲よりも広く、フリーランスに関わる「お金」という視点から編集されており、第4章では保険の知識、第5章は老後資金の形成方法、最後の第6章ではポイント制度やふるさと納税など、「お金を拾う方法」にまで言及しているのが特徴です。
この主旨について、作者は前書きにおいて次のように記しています。
「フリーランスとして生き残れる人と生き残れない人の差はなにか。それは、「限られた自分の時間を使って可能な限り効率良く稼ぎ続けることができるか否か」ということです。(中略)
会社員のときよりも「お金の感度」を上げる必要があるのです』(マネー術 p11,12)

当ブログの書評では、類書との比較を基本としています。
フリーランス向けの税務書籍としては、きたみりゅうじ氏の「フリーランスを代表して 申告と節税について教わってきました」(日本実業出版社)がベストセラー(かつ超ロングセラー)としてダントツであり、今回の類書としては、この書籍が最適でしょう。
しかし、私の手許にあるものが発売当初の版でかなり古く、「令和改訂版」としてインボイス制度も織り込んだものが発売されているようなので、旧版をもとに比較するのは適当ではありません。

そこで、今回はビジネスマンガという括りで、僭越ながら拙書『マンガでやさしくわかる決算書』(日本能率協会)と次の3点に着目して比較してみましょう。(ここから、先はネタですので、本気で読まないようにお願いします)

  • マンガと文章のバランス
  • ストーリー
  • 登場人物

マンガと文章のバランス
ビジネスマンガにおけるマンガと文章の比率は、各出版社のシリーズによって概ね決まっているため、通常、作者の意図は反映されません。
日本能率協会の「マンガでやさしくわかる」シリーズでは、マンガと文章がほぼ1:1の割合になっていますが、ビジネスマンガにおいては、これが文章量の最大値でしょう。マンガで決算書を教える書籍の中には全編がマンガのものもありますが、税金関係の論点が入ると文章部分がないと説明が困難です。
「マネー術」ではマンガ96ページ、文章54ページで、ほぼ2:1の構成になっています。
ちなみに、マンガの部分はネームを作成してしまうと変更できないのと、ページごとの単価が決まっていることから企画段階で決定されたページ数を変更できません。それに対して文章部分についてはページ単価がないため、いくら増やしても問題ありませんが、ページを増やしても作者の印税は増えません。

ストーリー
ビジネスマンガのストーリーは、専門のシナリオライターが作成します。1冊全体を通したストーリーにするものと章ごとの読み切りスタイルがあります。拙書はストーリーものですが、「マネー術」は章ごとに新しいフリーランスが登場する読み切りスタイルになっています。
いずれの形態においても、最終的には登場人物の成長譚として収束します。
ワンピースをはじめマンガの基本は困難の克服と成長でありますが、小説や映画では、現実を描写するために救いようのないオチを採用する作品も多々ありますので(例えばスパイク・リーの「ドゥ・ザ・ライト・シング」)、ビジネスの厳しさをリアルに表現するために最後のオチが重いビジネスマンガの登場も期待されるところです。

登場人物
ビジネスマンガの主人公は基本的に若いビジネスパーソンであり、彼らが書籍の主題となっているビジネススキルを身に付けることで成長していきます。「マネー術」の登場人物として特筆すべきなのは、マンガ中に作者である「吉澤大」氏が税理士として登場する点です。


私が知る限り、ビジネスマンガで作者が登場人物として現われるのは池上彰さんか堀江貴文さんぐらいしかいないのではないでしょうか。(そんなことないか?)
本書、読了後における私の最大の疑問は
「作者本人を登場人物としたのは編集者、ライター、作者のうち、誰の発案なのか?」
「登場する本人を、なぜ似顔絵にしなかったのか?(池上氏や堀江氏は似顔絵で登場します)」
の2点です。

丁度、本日10月1日はインボイス制度における発行事業者の登録申請開始日です。
今回のインボイス制度は、従来、免税事業者であったフリーランス、個人事業者の方々においても何らかの判断及びアクションが必須になるため、既に開業されている方々も含めて一読しておくべき1冊でしょう。

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