日本大学商学部教授の川野克典先生から新刊「管理会計・原価計算の変革」(中央経済社)を献本していただきました。(Disclaimer:なお、川野さんは私がアーサーアンダーセンのコンサルティング部門在籍時の直属の上司であります)
本書は副題に「競争力を強化する経理・財務部門の役割」とあるように、作者が日本企業の管理会計・原価計算の現状に危機感を持ち、その改善のための提言をまとめたものです。
全体の構成は次のとおりです。
- 第1章 日本企業の管理会計・原価計算の動向
- 第2章 管理会計・原価計算の理論と実務の乖離
- 第3章 管理会計・原価計算とICT
- 第4章 経理・財務部門の現状と会計人財
- 第5章 日本の会計学教育の現状
- 第6章 日本企業の国際競争力回復に向けた管理会計・原価計算の提案
前半の第1-3章において我が国の管理会計の現状が総括されています。アンケートやヒアリング調査による実証的な数値が提供されているので上場企業における全体感をつかめます。
また、各トピックごとに「著者の経験から得た知見」という項目が用意されているのが類書とは異なる本書の特徴です。本書を読むと、1ページに込められた情報の密度に驚かれるはずです(単に量の話ではありません)。
例をあげてみましょう。
バランス・スコアカードの導入が進まない理由として「バランス・スコアカードは、戦略、施策、業務計画の選択と集中を要求するので、定常業務を含めた組織の役割をカバーできない」(55ページ)
EVA導入が進まない理由として「EVAの算出と理解が困難だからである。」(60ページ)
一言で簡潔にまとめられていますが、長年に渡るコンサルタント経験がなければ書けない一文です。この「著者の経験から得た知見」を通して読んでいくだけでも、ここ30年間のコンサル業界のトレンドとその隆盛がわかり、コンサルタント業界を目指す方々にも大いに参考になるでしょう。当時を振り返り、コンサル業界の功罪についても正直に言及されている点に作者の誠意を感じます。
最終の第6章に作者の具体的な提言が挙げられていますが、その中に次の記述があります。
『経営の問題点は、「隠れやすい」。隠れている問題点を、統計やAIを用いて明らかにするのだ。真の問題点が明らかになれば、日本企業は問題点をカイゼンしていく能力を有している。しかし、既存の管理会計・原価計算手法では、真の問題点が明らかにならない。』(216ページ)
財務会計では見えてこない隠れた問題点を可視化するのが管理会計の目的であり存在意義です。何が「隠れている」のかを経理・財務部門が意識しない限り、その問題は闇に葬り去られてしまいます。
本書は、管理会計の書籍ですが、「隠れやすい」経営上の問題点について多くの示唆が得られますので、経理・財務部門だけではなく、経営管理に携わる企画部門、コンサルティング業の方々にも是非、読んで頂きたい1冊です。
(おまけ)
本書冒頭にある以下の注書に、私も強く同意します。
「ERP=Enterprise Resource Planningとは、本来、全社の経営資源の最適化計画のことを指す。残念ながら、現在のERPパッケージソフトウエアは、統合的基幹業務パッケージソフトウエアであり、全社の経営資源の最適化計画を実現できていない。従って、筆者はERPパッケージソフトウエアを「ERP」と省略することに抵抗感があり、本書では、表のスペースの関係で省略せざるを得ない場合や「SAP ERP」、「ERPシステム」といった固有名詞として用いられる場合を除き、「ERP」と省略して記載していない。(「はじめに」ⅳ)
「書評「管理会計・原価計算の変革」」へのコメント
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