税理士の吉澤大先生から、新刊「2時間で丸わかり インボイスと消費税の基本を学ぶ」(かんき出版)を献本していただきました。

先日、ご紹介した吉澤先生の前作「フリーランス・個人事業主が賢く生きるマネー術」においても、インボイス制度が解説されていましたが、今回の書籍はインボイス制度そのものに焦点を当てた1冊です。

かんき出版の「2時間で丸わかり」シリーズは、初心者の方々を読者対象とし、「2時間」で各領域を網羅的に理解できるように編集しています(私も以前、「会計の基本を学ぶ」を執筆しております)。

  • 第1章 まずはここから、消費税の基本の「き」
  • 第2章 これだけは知っておきたい!インボイス制度の基本の「き」
  • 第3章 免税事業者はインボイス制度にどう対応すればいいのか
  • 第4章 免税事業者から購入する課税事業者はどう対応すればいいのか
  • 第5章 インボイス制度での消費税の計算と経理処理について
  • 第6章 インボイス制度で請求書はここまで変わる

最近、インボイス関係の執筆依頼が多いため、類書を読む際には次の2点が気になります。

論点1 インボイスと適格請求書の使いわけ

そもそも、インボイス制度における「インボイス」という単語自体、一般的なものではありません。INVOICEは海外との取引では必須の基本書類ですが、その内容は請求書、納品書、送り状、領収書といった様々な要素を含むため適切な訳語がないのです。
さらに、消費税法の条文中に「インボイス」という用語は使われておらず、「適格請求書」という名称で定義されています。「インボイス制度」も「適格請求書等保存方式」が正式名称になります。
書籍や記事のタイトルに
「適格請求書等保存方式の基本を学ぶ」
「わかりやすい適格請求書等保存方式導入対応」

といったものは付けられませんので(付けたらだれも読まない)、タイトルには「インボイス方式」を使わざるを得ません。
そのため、文中で「インボイス(適格請求書)」といった注書きを入れて単語を置き換えていくのですが、制度説明の途中で混乱が生じてきます。

インボイスは税務署に届出を行った「適格請求書発行事業者」として登録されなければ発行できません。この「適格請求書発行事業者」を先ほどのルールにしたがって言い換えると「インボイス発行事業者」になるのですが、いまひとつ語呂が良くありません(本書では「適格事業者」という省略形を使っています)。
さらに、返品や値引きの際に発行するインボイスの正式名称が「適格返還請求書」でありまして、これを「返還インボイス」と略すのもどうかという問題に直面します。(なお、本書では言い換えずに「適格返還請求書」のまま表記しています)

論点2 仕入税額控除の説明

先ほど、インボイス制度の正式名称を「適格請求書等保存方式」と書きましたが、実は、この説明自体が正しくありません。今回導入されるインボイス制度を正確に表現すると
インボイス制度とは「消費税法における仕入税額控除の方法を従来の請求書等保存方式から適格請求書等保存方式に変更するもの」である。
という意味ですので、「仕入税額控除」とは何なのかを説明しなければ、制度改正の意味も実務への影響も伝えられません。
さらに、仕入税額控除が何かを伝えるには、消費税の基本的な仕組み(多段階課税)から説明せざるを得ないため、限られた文字数でインボイス制度を解説するのは至難の業となります。
本書は書籍媒体であり、十分な文字数さらに豊富な図解によって、この問題を適切にクリアしています。また、インボイス制度に直接関係のない規定については、重要度を付した上で巻末(付録2 詳細規定)にまとめる工夫もなされています。
反対にインボイス制度を理解し、自社で対応するためには、最低でも、この書籍程度の知識は必要になるとお考え下さい。

では、どう対応すればよいのか?

2023年10月のインボイス制度導入を控え多くの書籍が刊行されていますが、本書の特徴は、インボイス制度の説明だけではなく、その制度主旨まで踏み込んで事業者を啓蒙している点でしょう。
インボイス制度導入による影響は、経理部門の事務処理だけではなく、免税事業者との取引価格の見直しという局面で顕在化します。
この価格交渉は税法上の論点ではなく、独占禁止法や下請法上の論点になりますので、税務書籍で解説するのには限界があります。その一方で、制度開始が近づくにあたってインボイス制度導入反対の声も様々な組織から挙がっており制度の是非が問われています。
この交渉を冷静に進めていくためには、感情論に流されるのではなく、発注者側、受注者側ともに消費税の仕組みを理解した上で妥協点を見い出すしかありません。
本書では、消費税における益税の問題から改正の必要性、さらに業者の対応方針まで丁寧に説明されています(本書、第3章、第4章 参照)。

(追記)
吉澤先生の前作の書評において、「作品中に登場する本人を、なぜ似顔絵にしなかったのか?」という疑問を呈したのですが、本作中のイラストは作者の似顔絵になっておりました。(これ、吉澤先生がモデルですよね?)