本日は、昨年末に発売された元サッカー日本代表監督 岡田武史氏による『岡田メソッド』 (英知出版)をご紹介します。
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先日、地下鉄で隣に座った方が大きな本を読んでおりまして、内容が気になってのぞき見したのが本書でした。さっそく購入して読んでみたのですが、サッカーに興味のない方にもお勧めできる内容でしたので当ブログで取り上げる次第です。

岡田氏は、現在、サッカー監督の立場を離れ、今治FCのオーナーとして活動していますが、本書は、岡田氏が今までの経験から導き出したサッカー指導の方法論を体系的にまとめたものです。

・自立した選手を育てるために
本書の執筆意図について、まえがきに次のように記されています。(7ページ)

日本人を見ていると、自分の人生は自分で選べるにもかかわらず、周りや環境のせいにして選ぼうとしないと感じるときがあります。ひょっとすると日本人は、もともと自分の人生を主体的に生きることが苦手なのかもしれません。それでも、私は心に決めました。

「サッカーの世界で、それを変えられないだろうか?
主体的にプレーする、自立した選手を育てられないだろうか?」(中略)

「日本人が世界で勝つための<プレーモデル>を作り、16歳までにそれを落とし込んで、あとは自由にするチームを作ってみたい」

自立した選手と自立したチームを作るために、サッカーにおける1つの「型」としてまとめたものが「岡田メソッド」なのです。

・サッカーの分析ができるようになる
上述の通り、本書はサッカーのコーチやプレイヤー向けの指導書ですが、試合観戦を中心とした一般のサッカーファンが読まれても、サッカーをより深く理解できるようになります。
コーチが選手に何を指導するかを決めるためには、選手に欠けている点をつかまなければいけません。そのために第7章「ゲーム分析とトレーニング計画」が設けられています。
この章では、ゲーム分析のフレームワークが示されています。このフレームワークとチェックリスト(196ページ)を参考にしながらテレビを見れば、今まで以上にサッカーを楽しめるはずです。

近年、サッカーの戦術論については様々な専門書が出ており、一般の方々も多くの知識をお持ちだと思います。
本書を読まれる際に注意していただきたいのは、本書は岡田氏の実践の結果をまとめたものであるため、一般に使われている用語と異なる用語が使われている点です。
例えば、試合の攻守が変化する局面を、近年ではネガティブ・トランジション(攻撃から守備)、ポジティブ・トランジション(守備から攻撃)と表現することが多いのですが、本書では各々を「ボール・ロス」「ボール・ゲット」と表現しています。
これ以外にも「ガス」「ドック」など本書独自の概念が数多く登場します。
ただし、この点については編集サイドも認識しており、専用の用語集が別添されていますので、こちらを参照しながら読まれればよいでしょう。

・マネジメント本として読める
本書を当ブログで取り上げた最大の理由は、本書はマネジメントの指南書としても秀逸だからです。
岡田氏はサッカー監督退任後、多くの経営人との交流を進めており、そこから得られた知見が本書にフィードバックされています。執筆意図が「主体的な行動を促す」ことですから、経営との共通点が多いのも当然かもしれません。
第8章「コーチング」の第3節「リーダーとは」(260ページ)の文章は、組織で働かれているすべての人々を勇気づける名文です。
(ちなみに、戦後日本人の中で、最大のプレッシャーに遭遇しそれを克服したのは、フランスW杯予選の岡田氏と長野五輪の原田雅彦選手でしょう。私はプレッシャーに負けそうな時に、ジョホールバルのラーキンスタジアムと豪雪の長野のジャンプ台を思い出すようにしています)

本書を読み終え、あとがきを読んでいると、そこに書かれている担当編集者が、以前、仕事をご一緒した方だったので驚きました。
その方は、ビジネス書の出版社に勤めながらサッカー書籍を編集するのが夢とおっしゃっていまして、それが実現した際に献本もいただきました。

「ワールドカップが夢だった。」

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あれから15年、今後のサッカー界に、さらにインパクトを与える作品が生みだされました。
私が長々と駄文を連ねるよりも、編集者ご本人が本書の製作過程をnoteにまとめられていましたので、こちらを参照していただいた方が良いでしょう。

「岡田武史さんがサッカーを理論的に体系化したー書籍『岡田メソッド』ができるまで
https://note.com/f30103/n/n844303bb2c0c

本書の帯文には、まえがきから次の文章が引用されています。

「プレーモデルが確立されればW杯で優勝を争う日が来ると本気で信じています。」

これは、絵空事ではありません。
私が紹介するまでもなく、既に本書は多くのサッカー指導者や選手達の手に届いているはずです。彼らひとりひとりが、この知識を共有し、それを次世代の選手たちに伝えていけば、我が国のサッカーのレベルは必ず変わっていくでしょう。

1冊の本が未来を変えていく。本の持つ可能性が感じられる稀有な1冊です。