isologue で有名な磯崎哲也氏が、 「起業のファイナンス 増補改訂版」  (以降「評書」)を刊行しました。

20150127

前作 「起業のファイナンス」 は2010年10月に刊行されましたが、3万部を超える販売量は、この価格帯の実務書としては脅威的な数字です。

既に前作をお持ちの方は、改訂版を購入するか否かで逡巡されていると思います。
そこで、前作との違いをかいつまんでご紹介しておきましょう。

今回の改訂版では、新たに第9章「ベンチャーのコーポレートガバナンス」が追加されており、会社の機関設計のあり方について解説しています。
会社法導入によって株式会社の機関設計の自由度は格段に上がったのですが、反対に、自社にとって最適な仕組みは何なのか模索されている会社も多いと思います。

「取締役会を置くか?」
「監査役会を置くか?」 等々

これは、ベンチャー企業に限らず一般の中堅企業でも同様の悩みを抱えている会社が多いため、会社法改正にあわせたタイムリーな改訂になっています。

今回、評書と比較したい一冊はPaypalの創業者のひとり、ピーター・ティールの「ゼロ ・トゥ・ワン」です。

2014年のビジネス書ベストセラーですから、既にお読みになった方も多いでしょう。
(先日、旬刊経理情報に執筆した 「2014年のお勧め書籍」 で取り上げたかったのですが、ガチ過ぎて他の評者とダブってしまうだろうと思い紹介しませんでした)

ベンチャー企業と聞くと

「同級生が大企業に勤めるなか、敢えてベンチャーを目指し、IPOに大成功!お金が入ってウッハウハ。おまけに女の子にモッテモテ」

というような成功談とともに、ある種のいかがわしさを感じる方がいらっしゃるでしょう。

実際、ベンチャー経営者の著わすビジネス書は、スタートアップ時の壮絶な苦労の後に迎えた成功というストーリのものが多く、このようなベンチャー企業の陽の部分を、あえて「軟派な起業」と呼ぶとしましょう。

これは、悪い意味ではなく、起業に熱狂や情熱は不可欠ですし、人々を惹きつけるためにこのような要素も大切です。
しかし、メディアを介して報じられるベンチャー企業は、この「軟派」な部分だけが強調されている嫌いが有ります。

私のような(オヤジ世代の)専門家にとっては、若者の間に、このような「軟派」なイメージだけが広がることに危うさを感じます。

その点、本日取り上げる両書はベンチャーが持つ熱狂に対して、冷静に距離を置きつつも、それでもベンチャー・スピリットが大切なんだと説いています。
それが、端的に現れているのが以下の文章です

「(ドットコム・バブルの反省を踏まえた現代における起業の考え方に対して)ただし、すべてを逆にすればうまくいくというわけでもない。(中略)何よりの逆張りは、大勢の意見に反対することではなく、自分の頭で考えることだ」(ゼロ・トゥ・ワン p42)

「(「ベンチャーで社会は変わるのか」という項で) 「他人のせいで」という発想から卒業して、「『自分が』何をするか?」、というマインドを広めることこそが、今の日本を変える鍵であるはずです。」(評書、p369)

ゼロ・トゥ・ワンは起業家向けのビジネス書ですから、精神論が前面にでるのは当然ですが、評書は起業時のファイナンス手法を解説する実務書でありながら、注釈を含めて起業における「スピリッツ」の重要性を説いています。

両書のテーマは現代社会の閉塞感を打開するための起業の必要性という点で共通しており、それは、熱狂だけを頼りにしたものではないことが繰り返し延べられています。
これらは「軟派な起業」論に対して、地に足の着いた「硬派な起業」論といえるでしょう。

どちらも、起業を志す人に向けた書籍ですが、起業を考えていない方が読まれても、自分も何か始めないといけないなあと「やる気」の湧く一冊になっています。

【以降は非承諾広告であります】
ちなみに評書の巻末に参考書籍が載っているのですが、そちらで拙書
『早い話、会計なんてこれだけですよ!』をご推薦いただきました。

評書を読まれて起業への興味が湧いてきた方は、その応用編といえる「起業のエクイティ・ファイナンス」へ読み進まれるのがよいでしょう。

評書が、若干、難しく感じられた方は、拙書『早い話、会計なんてこれだけですよ』をお読みいただいて、会計の基本を身に付けることを(強く)お勧めします。


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