本日は、杉本徳栄教授が著した
『国際会計の実像 -会計基準のコンバージェンスとIFRSsアドプション-』 (同文館出版)をご紹介します。

と申しながら、私が本書を購入したのは「会計・監査ジャーナル」 8月号の山田辰巳先生の書評を拝見したからでありまして、私の駄文を読むよりも山田先生の書評をお読みいただいた方が、本書の魅力が伝わることを冒頭にお断りしておきます。

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現物が届きましたが、全1280ページ 定価13,000円(!)の大著でとにかく厚いです。

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比較用に隣に並べた『法人税法基本通達 逐条解説(八訂版)』(1664ページ)と比べると実務家の皆さんにはイメージしやすいと思います(ちなみに、こちらは7,200円)。

しかし、物理的な「厚さ」だけではなく、本書の中身の「熱さ」は、帯文の「著者渾身の一冊」 とおりの充実した内容です。

はしがきから本書の特徴を引用しますと、
「本書は、会計は言うに及ばず、外交を含む政治、経済、法律などの全方位から「制度」を捉え、会計基準のコンバージェンスとIFRSsアドプションを余すところなくまとめあげ、その実像について描き出すことを試みたものである。」

EU市場におけるIFRS義務化から始まった会計基準の統合議論は、我が国においても会計領域を越えた大テーマとなり、2010年前後に、そのピークを迎えました。
当時の米国と日本の状況を主要事項とともに簡単に時系列で追っていくと、

2008年8月 米国・SEC「ロードマップ規則案」の公表
(Roadmap for the Potential Use of Financial Statemnet Prepared in Accordance with International Financial Reporting Standards by U.S.Issuers)

このロードマップ規則案をベースに、我が国の方向を示す意見書が公表され、
2009年6月 日本・金融庁「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」

その後、米国で
2010年2月 米国・SEC 「SEC声明」
(Commission Statement in Support of Convergence and Global Accounting Standards)
が公表されましたが、このSEC声明は、当初のロードマップ規則案よりもIFRS導入に距離を置いた内容になっていたため、この時点で日本の進行状況が米国を追い抜くような状態になってしまいました。

このころ、国内のIFRSブームがピークを迎え、強制適用時期を巡る議論も進みましたが、東日本大震災直後の2011年6月21日に、民主党政権下の自見庄三郎金融大臣の談話
「IFRS適用に関する検討について」が公表され、2015年3月期における強制適用が否定されます。
その後、IFRS任意適用企業が徐々に増加して現在に及んでいます。

我が国においては、この時の自見金融大臣の発言が大きなターニングポイントになっており、その過程について本書第14章で詳細な検証が行われています。

当時の自見氏の考えとして、本書では『日経ヴェリタス』の発言が引用されています。

「当時は内外の情勢を考えて拙速な判断を避ける狙いがあった。金融庁の事務方では方針を転換するのは難しかったので、私が悪人となって政治主導でやるしかなかった。」(本書 1147ページ)

そして、自見大臣の発言中に出てきている政治主導の流れが、我が国でどのようにして生まれてきたのかを郵政民営化問題まで遡って分析しています。

近年、ビジネス書の領域で歴史書のヒットが増えています。
その中でも、受験世界史専門の塾を主催している ゆげ塾 さんの一連の著作は、今まで学んできた世界史を異なる視点から切り取って提示してくれるので読者を飽きさせません。

本書は会計の専門書というよりも学術書の領域の書籍ですが、IFRSの歴史を多様な視点から読み解いているため、「ゆげ塾」さんのビジネスマン向け歴史書のように、そのボリュームと関係なく興味を持ち続けながら読み進められます。

最後に冒頭でご紹介した山田先生の書評からの引用でしめさせていただきます。

「著者が、本書を完成させるためにどれだけの膨大な時間を費やして資料を収集し、分析整理したかを思うと、その情熱には感動すら覚える。著者の努力に敬意を表したい。」(「会計・監査ジャーナル」2017年8月号137ページ)

P.S
当HPでのご案内が遅れてしまいましたが、丁度、今月、拙書 『この1冊ですべてわかる 会計の基本』 が12刷りとなりました。
増刷の都度、書籍内の推薦図書を見直しているのですが、今回の増刷時に本書をIFRSの推薦図書に入れることができなかったため、次回13刷の際に御紹介する予定です。(そう言いながら13刷に到達しなかった際にはご容赦ください)

【書評】「国際会計の実像」 は会計史のゆげ塾だ!