新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

年明け最初のブログは、ご好評いただいております(?) 「これが答えだ!」シリーズの第3弾をお届けします。

本日は、
「キャッシュフロー計算書の略称はC/FかC/Sか?」
この問題に決着をつけたいと思います。

「そんなのC/Fに決まってるだろ」

と思われた方もいらっしゃるでしょうが、実は、それほど単純な問題ではありません。
今回の論点は、会計書籍の執筆時だけに発生する特殊な問題を包含するため、まず最初に、キャッシュフロー計算書の略称使用時に考慮すべき論点についてご説明していきます。
(なお、本日の論点は、あくまでも日本語における略称の取扱いについて議論しています。
そもそも英語の場合、損益計算書はIncome Statementと呼ばれるためP/Lという略称は一般的ではありません。また、後述しますが、日本語の場合には縦書という固有の問題も考慮する必要があります)

論点1 略称の必要性

書籍執筆時に、貸借対照表や損益計算書については、B/S、P/Lと略すのが一般的ですが、キャッシュフロー計算書については略称を使用しないというアプローチも存在します。

この時に、キャッシュフロー計算書に略称がないと、他の2表とのバランスが崩れるため、文脈上、どうしても略称が必要になる局面が生じるのです。

例えば、
「P/Lの当期純利益はB/S、キャッシュ・フロー計算書と関連している」
といった文章です。
これは、
「P/Lの当期純利益はB/S、C/Fと関連している」
と書いたほうがスマートです。
本文以上に、挿絵やイラストの場合、面積による制約が大きいためB/S、P/Lという略称を使わざるを得ず、キャッシュフロー計算書に略称がないと図が描けないケースもあります。

論点2 決算書とキャッシュフローの重複

そこで、キャッシュフロー計算書の略称として「C/F」を用いると、書籍執筆の過程で別の問題が派生します。

キャッシュフロー計算書自体の説明をする際に、その内訳項目である「営業活動によるキャッシュフロー」「投資活動によるキャッシュフロー」「財務活動によるキャッシュフロー」という3区分に言及しないわけにはいきません。
また、文中に「キャッシュフロー」という単語が頻繁に現れるため、冗長さを避けるために略称を使いたくなります。

例えば、
「最終的な現金増加額は営業活動によるキャッシュフロー、投資活動によるキャッシュフロー、財務活動によるキャッシュフローの合計額になる」
といった文章です。

この時、「キャッシュフロー」という名詞の略称に「CF」を使ってしまうと、決算書の略称と重複が生じてしまうのです。

作者が、キャッシュフロー計算書の略称にC/Sを用いている場合の理由のほとんどは、この論点をクリアするためと考えられます。

論点3 「/」(スラッシュ)の有無

P/LやB/Sの略称には、通常、「/」(スラッシュ)が入るため、決算書の略称には「/」を入れ、キャッシュフローの略称には「/」を入れないという方法で重複を回避する方法もあります。

キャッシュフロー計算書 = C/F
営業活動によるキャッシュフロー = 営業活動によるCF

一方、日本語の書籍には、縦書と横書という2種類の様式が存在します。
専門的な会計書籍は、通常、横書で書かれていますが、ビジネス書籍の主流は現在でも縦書です。
また、新書や文庫といった判型の制約から縦書が強制される場合もあります。
(拙書「借金を返すと儲かるのか?」は、単行本で刊行した際には横書でしたが、文庫化する際に縦書に直しています)

縦書の場合、半角文字を使ったり、カーニング(文字間の感覚を調整すること)ができないため、略称に「/」を使うと間延びした印象になります。
それを避けるため、P/LやB/Sの略称から「/」を除くケースもあるため、キャッシュフローの略称の重複を「/」の有無で対応するのが難しい場合も生じます。

事例研究

次に、我が国における主要な会計書籍で、どのような略称が使われているかをみていきましょう。

パターン1 C/F

『財務会計』 広瀬義州 中央経済社 (横書)
(本文中は省略せずに「キャッシュ・フロー計算書」と記述しているが、仕訳例でC/Fという略称を使用)

『決算書を読みこなして 経営分析ができる本』 高下淳子 日本実業出版 (横書)
(キャッシュ・フロー計算書もキャッシュ・フローのいずれもC/Fを使用)

『連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針』(会計制度委員会報告第8号)
(本文中は省略せずに「キャッシュ・フロー計算書」と記述しているが、仕訳例で略称C/Fを使用)

パターン2 C/S

『財務3表一体理解法』 國貞克則 朝日新書(縦書)
(縦書のため略称は「CS」本文中で「営業キャッシュフロー(営業CF)」と略している)

パターン3 略称は使用せず

『「1秒!」で財務諸表を読む方法』 小宮一慶 東洋経済新報社 (縦書)
(「キャッシュフロー計算書」で略称は使用せず)

『決算書はここだけ読もう』 矢島雅己 弘文堂(横書)
(決算書もキャッシュフローも略さずキャッシュフロー)

『財務会計講義 第14版』 桜井久勝 中央経済社 (横書)
(B/SとP/Lの略称は記載されているが、本文中は「キャッシュ・フロー計算書」と記述。ただし、「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準を「CF基準」と略記を使用)

『新版 財務会計論 第4版』 新井清光 中央経済社 (横書)
(本文中ではB/SもP/Lも略称の使用はない)

事例的には、略称としてC/Fを使用しているケースが多いようです。また、専門書においては略称自体を用いないケースが一般的です。

上記項目を考慮した結果、当ブログにおける結論は以下のとおりです。

結論 

横書の場合 キャッシュフロー計算書はC/S
キャッシュフローは  CF (例:営業活動によるCF)

縦書きの場合 キャッシュフロー計算書はCS
キャッシュフローは   CF

理由

書籍執筆時に、最終の校正段階で文字数調整が必要になる局面があります。
そのため、当初の原稿中では略称を使っていなくても、事後的に略称を使わざるを得ないケースが生じ得ます。

執筆を進めるにあたって「キャッシュフロー」という名詞に対して「CF」という略称を使う自由度を確保するため、キャッシュフロー計算書の略称には「C/S」を使用するのが無難でしょう。

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