4月19日に開催した日経ビジネススクール「ビジネスに役立つ会計の基本」の受講者の皆様、ご多忙の中、ご参加いただきありがとうございました。

先日、受講者の方から質問をいただきましたので、他の受講者の方々のご参考に当ブログにて再掲しておきます。

セミナーの最後で「在庫を減らす意味」を会計的視点から説明したのですが、「では、具体的な適正在庫量について、どうやって決めればよいか」というのが質問の主旨であります。

在庫水準についての教科書的な解答としては、生産管理領域において用いられている各種算式があります。例えば、安全在庫量は、

安全在庫=安全係数×時間当たり需要量の標準偏差×√リードタイム

といった計算式が有名です(情報処理技術者試験の問題によく出る論点ですので、ご存知の方も多いと思います)。

また、会計的に在庫水準を決定する手法として交叉比率を用いる方法などもあります。

 交叉比率 = 在庫回転率 × 粗利率
         在庫回転率:売上高÷在庫金額
     粗利率:粗利÷売上高

しかし、いずれの方法で在庫量を決定したとしても、在庫削減は販売時の機会損失や製造時の納期遅れといったリスクと常にトレード・オフの関係にあるため、在庫削減だけで効果を上げることはできません。

在庫量の削減だけではなく、在庫管理プロセス自体の変革が必要になるのです。
その結果、上式におけるリードタイムが改善され、結果として在庫水準の低下をもたらされるのが理想です。

類似の事例として、今期のプロ野球に導入された3時間半ルールが参考になると思います。
これは、震災による電力不足に対応するために導入された、「試合開始から3時間半を経過した場合、新しい延長回には入らない」というルールです。

http://www.npb.or.jp/npb/20110411release.html

試合時間に上限を設けることによって電力節約を目指しているのですが、電力節約という目的からみた場合、その効果は極めて限定的です。

むしろ重要なのは、試合時間自体の短縮。つまり、試合のプロセスの見直しです。
簡単に思いつくだけでも投手交代時の投球練習数の削減や、イニング交代時に走って移動するなど、改善事項は多く見当たります。
これらプロセスにメスを入れず、試合時間の上限値だけに制限を設けている今回の対策は、少し滑稽な印象さえ受けるのではないでしょうか。

在庫管理においても同様に、在庫量だけに注目するのではなく、在庫管理プロセスの見直しを進めることが肝要でしょう。