日本実業出版社の編集の方から、弁護士で現在青山学院大学法学部の教授も務められている木山泰嗣先生の 『教養としての「税法」入門』 (以降「税法入門」)を献本いただきました。

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私が、木山先生の著作を初めて手にしたのは2014年に光文社文庫から刊行された 『弁護士が教える分かりやすい「所得税法」の授業』 でありまして、近年の新書が読み易さを重視した「軽い」本が多い中、木山先生の書籍は、やわらかい語り口とは裏腹に、しっかりした内容なのが印象的でした。

今回の書籍も同様で、一般に実務書と呼ばれるジャンルでありながら判決文の引用も多く、さらに詳細な注釈も付されています。

前書きに
「単にわかりやすいということではなく、大学の授業でしっかり学んだような実感をもてる「読み応えのある本」にしようと、担当編集者と話しながら作りました。」
という記載がありますが、その編集意図通りの作品に仕上がっています。

税法の全体像を重要な判決事例を参照しながら解説していく手法は、初心者の方でも興味をもって読み進めていけるでしょう。

具体的には
約1,300億円の贈与税が争われた「武富士事件」
サラリーマンの給与所得控除について争われた「大島訴訟」
戦後最大の税務訴訟となった「ストック・オプション訴訟」

などを取り上げつつ、全体は以下のように構成されており、まさに大学の講義どおりの内容になっています。

第1章 税法の歴史とは
第2章 税法の重要判決にはどのようなものがあるか?
第3章 税法とはそもそも何か?
第4章 税法の基本原則を知ろう
第5章 税法の解釈とは?
第6章 税法の制度を押さえよう
第7章 不服申立て・税務訴訟とは?

本書を読んで思い出したのが、元長野県知事 田中康夫氏のデビュー作 「なんとなく、クリスタル」 (以降「なんクリ」)です。

1981年、バブルの少し前に刊行されベストセラーになった「なんクリ」は、本文の内容よりも本文同様のボリュームを持つ脚注の面白さが話題になりました。
実際、脚注部分だけを読んでも、それなりの音楽通(今では死語となったAORというジャンルですが)になれるという仕掛けが組み込まれていたのです。

今回取り上げた「税法入門」は、まったく異なるジャンルですが、脚注の充実度は「なんクリ」に負けていません。

318ページに及ぶ書籍の1/3は詳細な注釈ですので、まず、最初に注釈部分を割愛し本文部分だけを読み進めるのがよいでしょう。
本文を読み終わった後で、脚注部分だけを読み進んでいっても、税法の様々なトリビアが身に付きます。

聞くところによれば、本書は昨年8月の刊行から既に5度の増刷、累計1万部を超える売上を上げているそうです。
現在の出版環境において、これだけ硬派な作品が、このような実績をあげているという事実はビジネス書を著す者としても大変勇気付けられるニュースです。
今後も税法入門のスタンダードとして永く読まれ続ける一冊でしょう。

【書評】『教養としての「税法」入門』