作者の安藤優一郎氏から新刊 『島津久光の明治維新』 (イースト・プレス)を献本いただきましたので、本日は、こちらを紹介します。

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本書の執筆意図を前書きから引用します。

「一般的には西郷や大久保の言動が薩摩藩の立場や意見を代表するイメージが強いが、二人の言動は必ずしも薩摩藩を代表するものではなかったのである。藩士の大半そして島津家は倒幕路線には反対で、倒幕を強く主張する西郷や大久保たちは藩内で孤立していたからだ。」

「本書は明治維新150年を迎えるに際し、倒幕派の西郷や大久保が主役として描かれがちな薩摩藩の明治維新史を島津家(島津久光)の視点から読み解くことで、維新の再評価を試みるものである。」

私自身、日本史についてはまったく素人でありまして、島津久光という名前を聞いても「龍馬伝」に出てきた西郷隆盛の政敵という程度の知識しか持ち合わせておりませんでした。

したがいまして、本書を読むまでは薩摩藩と長州藩は倒幕でイケイケで、土佐藩の山内容堂(龍馬伝で近藤正臣が演じていた)が反対派と思っていたのですが、薩摩藩においても武力行使を伴う倒幕には反対する者が大勢だったと知りました。

そのような情勢からどのようにして明治維新が進んでいったかを理解するためには、明治維新における西郷隆盛の位置付けではなく、薩摩藩における西郷隆盛の位置付けを知る必要があり、そのためのキーパーソンが薩摩藩の島津久光になるわけです。

歴史書としての本書の意義をお伝えするには、私の知識はまったく役に立ちませんが、安藤氏と同じ作者という立場から本書を見てみると違う局面が見えてきます。

来年は明治維新150周年にあたり、それに合わせてNHK大河ドラマも西郷隆盛を主人公にした「西郷どん」と決まっています。
(ちなみに「西郷どん」の原作者 林真理子氏は現在、日経新聞朝刊で「愉楽にて」といいう連載小説を担当しておりますが、「結局、読者は俗なものにしか興味を持たない」というプロ作家の達観が滲み出る名作ですので、未読の方も是非、一度お読みください)

歴史書業界ではこの維新150周年のBigWaveが生じており、その流れに乗って安藤氏も、既に多くの西郷隆盛関連書籍を刊行しております。

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本書は、映画で言えば西郷隆盛のスピン・オフ企画ということになりますが、言い方を変えれば西郷隆盛関連著作の副産物でありましょう(原価計算で言えば連産品)。
書籍の執筆過程において、西郷隆盛に関係する島津久光についても多くの資料が集まったため、これを別の視点から一冊にまとめてみたのが本書というわけです。
先程、副産物などという失礼な表現を使ってしまいましたが、その試みは的を射たものであり、切り口を変えて題材を整理し、ひとつの作品に仕上げのは立派なプロの技術であります。

したがいまして、本書は、大河ドラマ「西郷どん」を楽しむ際に、多角的な視点を提供する副読本にふさわしい一冊です。

話は変わりますが、、歴史書ジャンルにおける「周年」ビジネスを会計業界にも適用できないでしょうか。

来年の平成30年は平成元年の消費税導入から30周年でありますから、
「祝 大型間接税導入 30周年! 一般消費税、売上税の蹉跌を越えて」
といった企画や
平成20年4月に導入された内部統制規制(J-SOX法)10周年を記念して
「祝 内部統制 10周年! 失われた「重要な欠陥」を探して」
といった企画で関連書籍をバンバン刊行し、会計書ジャンルでもBig Waveを起こしていただきたいものです。

「西郷どん」の副読本として -書評「島津久光の明治維新」-